採用選考、採用内定、採用決定時に、求人広告で掲載した労働条件を下回る労働条件を提示した場合、職業安定法違反を問われる可能性があります。
求人募集に際して明示する労働条件は、
【このくらいかな?】
ではなく、
採用内定を決定したときに提示する労働条件を
【絶対に下回らない労働条件】
を明示(記載)しましょう。
職安則第4条の2第3項_法第5条の3(労働条件等の明示)に関する事項
法第5条の3第4項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。ただし、第8号に掲げる事項にあっては、労働者を派遣労働者(労働者派遣法第2条第2号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)として雇用しようとする者に限るものとする。
1 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
2 労働契約の期間に関する事項
2の2 試みの使用期間に関する事項
3 就業の場所に関する事項
4 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
5 賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)第八条各号に掲げる賃金を除く。)の額に関する事項
6 健康保険法(大正11年法律第70号)による健康保険、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)による厚生年金、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による労働者災害補償保険及び雇用保険法(昭和49年法律第116号)による雇用保険の適用に関する事項
7 労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
8 労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨
職業安定法に基づく指針
職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)(最終改正平成29年厚生労働省告示第232号)
この厚生労働省告示に注意点等が記されています。
ハローワークが求人票を受理する際もこの指針を基礎にしています。
職業安定法に基づく指針等の主な内容
- 明示する労働条件は、虚偽又は誇大な内容としてはなりません。
- 有期労働契約が試用期間としての性質を持つ場合、試用期間となる有期労働契約期間中の労働条件を明示しなければなりません。また、試用期間と本採用が一つの労働契約であっても、試用期間中の労働条件が本採用後の労働条件と異なる場合は、試用期間中と本採用後のそれぞれの労働条件を明示しなければなりません。
- 労働条件の水準、範囲等を可能な限り限定するよう配慮が必要です。
- 労働条件は、職場環境を含め可能な限り具体的かつ詳細に明示するよう配慮が必要です。
- 明示する労働条件が変更される可能性がある場合はその旨を明示し、実際に変更された場合は速やかに知らせるよう、配慮が必要です。
1 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
明示する従事すべき業務の内容等は、虚偽又は誇大な内容としないこと。
- 原則として、求職者等と最初に接触する時点までに従事すべき業務の内容等を明示すること。
- 従事すべき業務の内容等の事項の一部をやむを得ず別途明示することとするときは、その旨を併せて明示すること。
- 求職者等に具体的に理解されるものとなるよう、従事すべき業務の内容等の水準、範囲等を可能な限り限定すること。
- 明示する従事すべき業務の内容等が労働契約締結時の従事すべき業務の内容等と異なることとなる可能性がある場合は、その旨を併せて明示するとともに、従事すべき業務の内容等が既に明示した内容と異なることとなった場合には、当該明示を受けた求職者等に速やかに知らせること。
2 労働契約の期間に関する事項
本項は厚生労働省告示で特に触れられていません。
採用時の労働条件明示を意識して記載するのがポイントとなります。
期間の定めのある労働契約を締結しようとする場合は、
労働者が契約期間満了後の雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能となるものである必要があり、
その内容としては
- 更新の有無
-
- 自動的に更新する
- 更新する場合がありえる
- 契約の更新はしない
- 契約更新の判断基準
-
- 契約期間満了時の業務量により判断する
- 労働者の勤務成績、態度により判断する
- 労働者の能力により判断する
- 会社の経営状況により判断する
- 従事している業務の進捗状況により判断する
などを明示することが考えられます(平成24・10・26基発1026第2)。
2の2 試みの使用期間に関する事項
期間の定めのある労働契約を締結しようとする場合は、当該契約が試みの使用期間(いわゆる「試用期間」です)の性質を有するものであっても、当該試みの使用期間の終了後の従事すべき業務の内容等ではなく、当該試みの使用期間に係る従事すべき業務の内容等を明示すること。
いわゆる「試用期間」は法律が定める制度ではありません。
会社が従業員を雇用するに当たり、自社の従業員としての適性を判断するために、期間を定め雇用し、その期間中に適性を見極め、適正があると判断した場合に、【正式に】従業員として【採用】とする、会社の私的自治に基づく制度です。
求人における労働条件明示においては、試用期間は正式採用前の特別な労働契約期間と考えられるため、その旨の記載が求められています。
3 就業の場所に関する事項
本項は厚生労働省告示で特に触れられていません。
採用時の労働条件明示を意識して記載するのがポイントとなります。
- 雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示する。
転勤や配置転換により、就業の場所および従事すべき業務が変化することが予定されている場合は、将来の就業の場所及び従事すべき業務についても明示することが望まれます。
- 労働者がパソコン等の情報通信機器を活用して自宅で業務に従事するいわゆる「在宅勤務」を行わせる場合は、労働契約の締結に際し、就業の場所として、労働者の自宅を明示する必要があります(平成20・7・28基発0728001)。
4 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条の3第1項の規定により同項第2号に掲げる時間労働したものとみなす場合(専門業務型裁量労働制)又は同法第38条の4第1項の規定により同項第3号に掲げる時間労働したものとみなす場合(企画業務型裁量労働制)は、その旨を明示すること。
ハローワークに求人票の掲載を依頼する際には、この項の内容の記載があることはもちろんのこと、
その内容が労働基準法に抵触していないか?
変形労働時間制を導入している場合には、その運用状況まで確認を求められることもあります。
また、所定労働時間を超える労働の有無には、時間外労働の月平均時間数(見込み時間数)の明示をも求められます。
勤怠管理を適切に実行することは、給与計算のためだけではなく、求人から退職までの全てに影響を及ぼします。勤怠管理の適切な実行に自信がないのであれば、WEB勤怠管理を活用することをオススメします。
5 賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第8条各号に掲げる賃金を除く。)の額に関する事項
賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること。
また、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする労働契約を締結する仕組みを採用する場合は、名称のいかんにかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金(以下このハにおいて「固定残業代」という。)に係る計算方法(固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(以下このハにおいて「固定残業時間」という。)及び金額を明らかにするものに限る。)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること。
- 固定残業代の支払いがある場合の記載例
1.基本給 300,000円(2の手当を除く額)
2.業務手当 120,000円(固定残業代)
時間外労働の有無に関わらず、45時間分の時間外手当として120,000円を支給する。
45時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給する。
6 健康保険法(大正11年法律第70号)による健康保険、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)による厚生年金、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による労働者災害補償保険及び雇用保険法(昭和49年法律第116号)による雇用保険の適用に関する事項
本項は厚生労働省告示で特に触れられていません。
いずれの保険も、適用要件を満たした日(入社時に条件を満たしていれば入社日)から労働者は被保険者として適用となります。試用期間の有無は問いません。
■■■■■■■■■■早見表
募集条件が被保険者要件を満たす基準であるならば、適用する旨明示しましょう。
なお、会社が各保険に未加入である場合、
ハローワークでは求人票を受理しません=ハローワークを活用した求人募集はできません。
7 労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
本項は厚生労働省告示で特に触れられていません。
ハローワークの求人を活用する場合には必ず記載を求められる事項です。
8 労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨
本項は厚生労働省告示で特に触れられていません。
求人内容が「派遣労働者として雇用する」場合にはその旨明示します。
求人募集内容(労働条件)に変更があった場合
2018年1月1日改正法施行により、求人→採用決定 の過程でのトラブル防止の観点から、
求人募集内容(労働条件)に変更があった場合、ビフォー・アフターの明示が法律上の義務となりました。
これに伴い
- 職業安定法施行規則第4条の2第7項
求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者は、求職者、募集に応じて労働者となろうとする者又は供給される労働者に対して法第5条の3第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容等に関する記録を、当該明示に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給が終了する日(当該明示に係る職業紹介、労働者の募集又は労働者供給が終了する日以降に当該明示に係る労働契約を締結しようとする者にあっては、当該明示に係る労働契約を締結する日)までの間保存しなければならない。
が新設され、
求人募集内容(労働条件)の記録(変更を含む)を、募集が完結するまでの間、保存しなければならなくなりました。
変更に該当するパターン
職業安定法に基づく指針等の主な内容
- 労働者が変更内容を認識した上で、労働契約を締結するかどうか考える時間が確保されるよう、労働条件等が確定した後、可能な限り速やかに変更明示をしなければなりません。
- 変更明示を受けた求職者から、変更した理由について質問をされた場合には、適切に説明を行うことが必要です。
- 当初明示した労働条件の変更を行った場合には、継続して募集中の求人票や募集要項等についても修正が必要となる場合がありますので、その内容を検証した上で、必要に応じ修正等を行うことが必要です。
ビフォー・アフター明示の手段と方法
- 当初の明示と変更された後の内容を対照できる書面を交付する方法
新旧対照表を作成し書面を交付する。
- 労働条件通知書において、変更された事項に下線を引いたり着色したりする方法や、脚注を付ける方法
ここにいう労働条件通知書とは、採用内定者、採用決定者に対して交付する労働条件通知書です。